ショウジョウバエを利用した筋細胞の研究

筋細胞は多核の巨大な細胞でありT管や筋小胞体などの高度に組織化されたユニークなオルガネラを持ちます.それらのオルガネラの構造と筋収縮における機能はよく知られていますが形作られるメカニズムは驚くほど理解されていません.

筋細胞オルガネラの研究が立ち遅れてきた要因に十分に発達した筋細胞を培養系で再現できずハイスループットな解析ができなかった点があげられます.私たちは筋細胞の構造が進化的によく保存されていることに着目しショウジョウバエを用いて筋オルガネラが形成・再構成されるメカニズムを明らかにしようとしています.ショウジョウバエの筋細胞は体表直下に位置するため蛍光タンパク質を付加したオルガネラマーカーを発現させることにより生きた個体の筋細胞オルガネラを共焦点顕微鏡により簡便に観察できハイスループットな解析も可能です.

また筋疾患の遺伝学解析ショウジョウバエの遺伝学また細胞生物学的手法を駆使してヒト遺伝性筋疾患の原因遺伝子の同定と機能解析にも取り組んでいます.

筋細胞の模式図

ショウジョウバエの筋細胞

T管が形作られるメカニズムの解析

筋細胞の収縮は筋小胞体から放出されるカルシウムイオンにより制御されています.運動神経から伝えられた刺激は細胞膜上の受容体を介して筋小胞体へと伝えられます.効率的な同調した収縮には、“細胞表面”と細胞内に張り巡らされた筋小胞体が至る所で近接している必要がありますが、筋細胞は巨大な細胞であり、内部は細胞表面から遠く隔たれています.

 

そのギャップを埋めるべく、筋細胞には細胞膜と連続したT管と呼ばれる網目状の膜構造が張り巡らされており、同調した収縮を可能にしています.T管に不全を持つ遺伝性の筋疾患からも、T管の重要性は知られていますが、形作られるメカニズムは十分に理解されていません.

私たちは、プロテオミクス、ヒト遺伝性筋疾患の遺伝学的解析、また独自のT管のハイスループット解析法を組み合わせて、T管が形作られるメカニズムのの解明を目指しています.

LarvalTT-Green.png

筋細胞のT管ネットワーク

筋細胞リモデリングのメカニズムの解析

筋細胞は最終分化した細胞ですが可塑性を持ち,体内環境の変化に応じて,恒常的に萎縮と肥大(リモデリング)を繰り返しています.その際,筋原線維の増減に伴いオルガネラも適切に分解・再構成されていますが,そのメカニズムはほとんど明らかにされていません.

私たちは,ショウジョウバエの変態期に,腹部の一群の筋細胞が完全に壊された後に再形成される新たな現象を発見しました.この現象は,筋萎縮・筋肥大の良い解析モデルになると考えられます.これまでの解析から,筋細胞の再構成にオートファジーが重要な役割を果たしていることを明らかにしましたが,まだまだ多くの謎が残されています.

今後は,RNAseqによる遺伝子発現の定量的解析, ライブイメージング,また遺伝学的な手法などを駆使して,筋細胞リモデリングの全容を明らかにします.

変態に伴う筋細胞のリモデリング

オートファジーを介した分泌経路の解析

通常の分泌タンパク質はシグナルペプチドを持ち粗面小胞体上で翻訳され小胞体とゴルジ体を経由して細胞外へ分泌されます.しかしながらシグナルペプチドを持たないタンパク質の中にもガレクチンやインターロイキン(IL)-1ベータなどのように細胞外で重要な機能を持つものが多数知られています.これらの分泌にオートファジーが関わることが示唆されていますがその実体はこれまで明らかにされていません.

 

私たちはショウジョウバエの筋細胞から,オートファジーを介してかなりの量の細胞質タンパク質が分泌されていることを見出しました.独自の簡便なアッセイ法とショウジョウバエの遺伝学的手法を組み合わせてオートファジーを介した分泌に働く一群の遺伝子を同定します.さらにオートファジーに依存して分泌されるカーゴタンパク質の網羅的な解析にも取り組んでいます.

オートファジーを介したタンパク質の分泌

藤田尚信研究室 東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

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